LINEAイノベーションが目指す核融合
LINEAイノベーションは、”究極のクリーンエネルギー”であるp-11B反応(水素とホウ素11の核融合反応)による商用核融合炉の実現を目指しています。「先進燃料核融合」とも言われるp-11B反応については、こちらのページで解説しています。
これまで、p-11B反応による核融合炉の実現は極めて難しいとされてきました。それは、多くの核融合研究機関・企業が研究を進めてきた「熱的核融合」において、p-11B反応は非常に高いプラズマ温度が必要であるためです。そこでLINEAイノベーションは、「熱的核融合」とは異なる新たなアプローチによってp-11B反応を起こします。
熱的(サーマル)核融合とは
熱的核融合では、高温・高密度に閉じ込めたプラズマ粒子の熱運動により粒子(原子核)同士が衝突し、クーロン障壁を越えると核融合反応が生じます。
以下のグラフは、ある温度におけるプラズマ中の粒子の速度分布を示しています。横軸が粒子速度、縦軸が粒子の存在割合です。プラズマの温度が1億度(約10keV*)の場合、プラズマ中の全ての粒子が同じ速度で運動しているわけではなく、遅い粒子から速い粒子まで、さまざまな速度をもった粒子が存在します。熱的核融合では、この分布の右側の方の、非常に速度が大きい(すなわちエネルギーが高い)ごく一部の粒子が衝突することで核融合反応が生じます。そのため、プラズマ全体を高温に維持する必要があります。

横軸は粒子の速度、縦軸は粒子の存在割合(すなわち粒子数)
多くの核融合研究機関・企業が熱的なプラズマによる核融合反応を目指しており、一般的に「核融合」というと多くの人が熱的核融合をイメージします。
*)keV:eV(エレクトロンボルト)はエネルギーの単位の一つで、1keV(キロエレクトロンボルト)= 1,000eV。プラズマや核融合の分野ではイオンや電子の温度をエレクトロンボルトで表現することが多く、1eVは約10,000度に相当します。
強み
燃料となるプラズマ粒子のうち、単位時間に一定以上の数の粒子が核融合反応を起こすことができれば、反応によって発生するエネルギーによってプラズマが加熱され、外部エネルギーなしで核融合反応を持続させることができるようになります。これを「自己点火」と言います。
課題
熱的核融合では高温・高密度のプラズマを長時間閉じ込めなければなりません。自己点火のために要求される温度・密度・閉じ込め時間の条件は非常に厳しく、現在すべてを同時に満たした例はありません。
例えば温度だけを考えても、最も核融合反応が起こりやすいD-T反応でも10keV(約1億度)以上が必要とされています。
p-11B反応ではさらに高温(約10億度)が必要になりますが、プラズマ温度が高くなるほど放射損失*が増大し、エネルギーが失われるため、従来の熱的核融合だけではp-11B反応を実用化することは極めて困難と考えられています。
*)放射損失:運動している荷電粒子の軌道が電場や磁場によって曲げられると、荷電粒子は持っていたエネルギーの一部を電磁波として放射します。このような放射によるエネルギー損失のことを「放射損失」と言います。
LINEAイノベーションの非熱的核融合
前述の通り、p-11B反応を熱的核融合で起こすことは非常に困難です。LINEAイノベーションは、FRCとミラー磁場それぞれの特徴を活かして、高エネルギーの粒子ビームを用いて形成する非熱的なプラズマによってp-11B反応を目指します。
粒子ビームとは、イオンを高エネルギーに加速したもので、これを中性化してプラズマ中に入射します。我々のアプローチでは、主にプラズマ中のホウ素11と、ビームによって入射された水素が核融合反応を起こします。
非熱的核融合の実現に向けたアプローチを簡単に説明します。FRCは、こちらのページで説明している通り、開いた磁力線領域の中に閉じた磁力線領域が存在します。この閉じた磁力線領域に高密度プラズマ(コアプラズマ)が閉じ込められるため、これまでの研究ではコアプラズマの性能が注目されてきました。しかし、コアプラズマの特性は、周囲の開いた磁力線領域にも強く依存し、また、閉じ込められた高エネルギーイオンは、この周辺領域にも存在します。そこで、開いた磁力線領域に強いミラー磁場を適用し、これらの2つの領域を反応場として利用するという全く新しいコンセプトにより、非熱的核融合の実現を目指します。
特徴
プラズマ全体を高温にする必要がない
熱的核融合でp-11B反応を起こすためには、100keV(約10億度)の高温プラズマが必要でした。しかし非熱的核融合では、数百keVの高エネルギーイオンが主たる反応を起こすため、コアプラズマ全体を極端な高温にする必要がありません。また、FRCでは高エネルギーイオンがコアプラズマの境界に達する大きな軌道を持つため、エネルギーが大幅に異なるコアプラズマと高エネルギービームイオンが共存するシステムを構築できます。
電力の供給を容易に制御可能
LINEAイノベーションが目指す方式では、入射するビームを制御することで発電量を調整できます。そのため、電力需要に応じた発電が可能であり、ピーク電源やベースロード電源としての利用が期待できます。
開発コストが比較的低い
核融合発電の実現には、以下のステップが必要です
Step 1
核融合反応を起こす
Step 2
入力エネルギーより出力エネルギーが大きくなるように反応効率を上げる
Step 3
連続的に核融合反応を起こす(持続的な電力供給)
LINEAイノベーションが目指す非熱的核融合では、反応率やイオンの軌道はビームのエネルギーに依存するため、上記Step 1,2はビームの本数や電流量を調整することで比較的小規模な装置での実験が可能です。Step 3については、熱負荷等の研究開発課題がありますが、多くの構成要素において熱的核融合よりも要求条件は低いと考えられます。さらに、FRCミラーハイブリッド炉はシンプルな構造であるため、メンテナンス性や冷却面でも他の方式より優れています。
このようにLINEAイノベーションは、FRCとミラー磁場の両方の特徴を活かし、従来とは異なるアプローチでp-11B核融合炉の実現に向けて研究開発を進めています。
参考文献
[1] H. Matsuura,小特集 先進燃料核融合研究の現状と展開 2. 先進燃料核融合プラズマ及びその核燃焼, J. Plasma Fusion Res. Vol.98, No.2 (2022),