FRC(磁場反転配位)とは
FRC(Field-Reversed Configuration:磁場反転配位)は、プラズマの磁場閉じ込め方式の一つです。プラズマと磁場閉じ込めについては、こちらのページで詳細に説明しています。
FRCの磁場構造は下図のようになっており、開いた磁力線内に回転楕円体状のプラズマを形成します。
FRCの大きな特徴として、ベータ値(β値)が非常に高いことがあります。β値とはプラズマの閉じ込め効率の指標の一つで、β値が高いほど、小さな外部磁場(低コスト)で高温・高密度(高性能)のプラズマを閉じ込めることができると言えます。
FRCがβ値の高いプラズマ(「高βプラズマ」と言います)であることは、その磁場配位と圧力の平衡(力のつりあい)によって説明できます。
まず、FRCの磁場配位について述べる前に、トカマク型を含む一般的なトーラス(ドーナツ状)磁場について簡単に説明します。国際熱核融合実験炉ITERに代表されるトカマク型では、トロイダル磁場とポロイダル磁場の重ね合わせで閉じ込め磁場が形成されます。トロイダルはドーナツの大円周方向、ポロイダルは小円周方向を指します(下図)。
FRCは、下図のように、一般的なトーラスを横倒しにし、中心軸方向に引き伸ばした構造をしています。アスペクト比*は極限的に低く、ドーナツ中心の穴はつぶれて回転楕円体状の閉じ込め領域を持ちます。
※あくまでも磁場配位を簡単に説明するものであり、FRCがこのような手順で形成されるわけではありません。
*)アスペクト比:トーラス(ドーナツ型)の大円の半径をR、小円の半径をaとすると、それらの比 R/a をアスペクト比と言います。
ただし、FRCにはトロイダル磁場が存在しません。FRCは、トロイダル方向に流れるプラズマ電流がつくるポロイダル磁場のみで閉じ込めが成立しています。これが、FRCのβ値が非常に高いことの理由です。
このことを詳細に説明します。磁場閉じ込めプラズマの圧力平衡(力のつりあい)は、
∇p = j × B
で表されます。ここで、
∇p:プラズマ圧力の勾配
j:プラズマ電流
B:磁場
j × B:ローレンツ力
です。前述のように、FRCにはトロイダル磁場がなく、磁場B(下図のBp)とプラズマ電流 j (下図のjt)は完全に直交します。そのため、外積の定義より、ローレンツ力によってプラズマ圧力勾配を効率よく支持することがわかります。[1] このため、FRCは極限的に高いβ値を持ちます。
FRCの形成方法
FRCの装置概要を以下の図に示します。
FRCの生成方法の一つで、LINEAイノベーションが採用している「衝突合体法(Collisional Merging)」の手順は、以下の通りです。[2]
- 真空チャンバー(プラズマ閉じ込め部)の両端に設置されたプラズマ生成部にて、2つのプラズモイド(プラズマの塊)が生成されます
- これらのプラズモイドを、生成部及び加速部内で主に磁気圧によって加速・移送されます(リニアモーターカーと同じ原理)
- プラズモイドは、閉じ込め領域内で音速を超える相対速度(数百km/s)で衝突・合体し、FRCプラズマを形成します
FRCの特長
(1) プラズマの閉じ込め効率が非常に高い
前述の通り、β値が非常に高い(小さな外部磁場で高温・高密度のプラズマを閉じ込められる)ことがFRCの大きな特長です。実際、β値を他の磁場閉じ込め方式と比較すると次のようになります。
トカマク:β < 10%
ヘリカル:β < 10%
ミラー:β〜30%
FRC:β > 50%
このことは、β値が低い他の方式に比べて、閉じ込め磁場の強さを格段に小さくすることができることを表します。
(2) 堅固な安定性
前節「FRCの形成方法」で説明したように、FRCは2つのプラズモイド(プラズマの塊)が超音速で衝突・合体して形成されます。形成過程をより詳細に説明すると、2つのプラズモイドが衝突した直後、まず衝突軸方向(下図横方向)に圧縮され、次に径方向(下図縦方向)、軸方向の順で膨張して、数十マイクロ秒(1マイクロ秒=100万分の1秒)という非常に短い時間でFRCプラズマを形成します。[2]
このような激しい擾乱を伴うにもかかわらず、崩壊せず自律的に磁場配位が維持・再形成されることは、FRCの堅固な安定性を示しています。
例えばトカマクでは、プラズマの垂直方向の位置がわずか数%ズレることで、ディスラプション*という崩壊現象を生じることが知られています。すなわち、前述のようなダイナミックな形成過程でプラズマが維持されることは、トカマクではあり得ません。このことからもFRCの特異的な安定性がわかります。
*)ディスラプション:超高温のプラズマが突然不安定になり、瞬間的にプラズマが消滅する現象。
(3) 自律的な磁場配位形成
FRCの磁場配位はプラズマにより自律的に形成され、外部コイルにより強い閉じ込め磁場を生成する必要がないことも大きな特徴の一つです。さらに、FRCでは、この高い自律性に加え、ビームにより導入される高エネルギーイオンによる安定化効果や、外部の開いた磁力線を介した電場制御が確立され、性能の高いFRCが実現しています。[2]
(4) 装置がシンプル
FRCの装置は直線型でプラズマの中心を貫く構造物がなく、他の磁場閉じ込め方式(トカマクやヘリカル)と比較すると非常にシンプルです。そのため、メンテナンス性が高く経済的な核融合炉の実現を期待できます。
(5) 開放端系であり直接エネルギー変換が可能
FRCの磁場構造は閉じた磁力線と開いた磁力線(開放端)からなります。
LINEAイノベーションが目指すp-11B核融合反応では、下図の通り荷電粒子であるアルファ粒子(ヘリウム原子核)が生成されます。
荷電粒子であるアルファ粒子は、開いた磁力線に沿って炉心(核融合反応部)の外へ取り出すことができます。取り出した高エネルギーのアルファ粒子は、その運動エネルギーを直接電気エネルギーに変換することができます。すなわち、発電に蒸気タービンが不要になるため、発電効率が大幅に向上することが期待できます。
FRCの課題
(1) プラズマの維持時間
FRCは長年、プラズマの維持時間が短いことが課題でした。しかし、米国の核融合スタートアップ・TAE Technologiesが、ビームによって導入した高エネルギーイオンの安定化効果などにより定常維持に成功しています。[3]
(2) 低ベータプラズマと異なる特性
トカマクを始めとした多くの磁場閉じ込めプラズマでは、MHD(磁気流体力学)に基づいてその振る舞いが理解されてきました。一方でFRCは、プラズマ中のイオンのジャイロ半径*1がプラズマのスケールと同程度となるため、「運動論的プラズマ」としてその振る舞いを理解する必要があります。[2]
極限的に高いβ値を持つFRCが、小型の実験装置においても、アルヴェン時間*2などの特性時間を大きく超えて安定に存在することは、MHDでは説明がつきません。多くの磁場閉じ込めプラズマの平衡や安定性はMHDで理解できることから、プラズマ分野の研究者にもFRCの特性が十分に理解されにくいことも課題の一つと言えます。
一方で、運動論的プラズマとも言えるFRCでは、異常輸送特性*3が観測されないなど、核融合炉としては有利な実験結果も得られています。
*1)ジャイロ半径:イオンは磁力線に巻き付きながら運動する性質があります。これを「ジャイロ運動」といい、そのジャイロ運動の半径を「ジャイロ半径」と言います。
*2)アルヴェン時間:プラズマの磁力線を伝わる横波を「アルヴェン波」と言います。アルヴェン波が伝わる速度を「アルヴェン速度」と言い、アルヴェン時間 = 装置サイズ / アルヴェン速度 です。実験室のプラズマでは、数μ秒から数m秒程度となります。(1μ秒 = 100万分の1秒、1m秒 = 1000分の1秒)
*3)異常輸送:プラズマ内で生じた乱流によってエネルギーや粒子の拡散が大きくなり、閉じ込め性能が劣化することです。
(3) 世界的に見て技術的な蓄積が少ない
トカマクなど他の磁場閉じ込め方式と比較して、世界的な技術蓄積が少ないことも課題の一つです。一方で、要求される特異な実験技術による参入障壁の高さは、スタートアップとしての優位性とも言えます。
LINEAイノベーションは、日本で唯一大型のFRC装置を有する日本大学理工学部プラズマ理工学研究室や、米国・TAE Technologies社との連携/共同研究により、FRC核融合の開発における諸課題を解説し、先進燃料核融合の実現を推進していきます。
このようにFRC方式は、核融合炉として有利な特徴が多くある一方で、実現のためにはさらなる研究開発が必要です。LINEAイノベーションは、FRCとミラーの両方の特徴を活かした先進燃料核融合炉の実現に向けて研究開発を進めています。
参考文献
[1] T. Takahashi et al., 小特集 極限的高ベータプラズマ閉じ込め:FRC 研究の新展開 2.FRC の基礎的理解, J. Plasma Fusion Res. Vol.84, No.8 (2008), https://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2008_08/jspf2008_08-500.pdf
[2] T. Asai et al., 極限的高ベータ配位:FRC の閉じ込め・安定性をどう理解するか?, J. Plasma Fusion Res. Vol.96, No.4 (2020), https://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2020_04/jspf2020_04-165.pdf
[3] H. Gota et al., Achievement of field-reversed configuration plasma sustainment via 10 MW neutral-beam injection on the C-2U device, Nucl. Fusion 59, 112009 (2019).