核融合とは
2つの軽い原子核を高速で衝突・融合させると重い原子核が生成され、同時に膨大なエネルギーが放出されます。この反応を「核融合(フュージョン)」といいます。
例えば、水素の同位体である重水素(D)と三重水素(T)による核融合反応(D-T反応)の場合、燃料(DとT)1グラムから得られるエネルギーは、石油8トンを燃焼させて得られるエネルギーと同等です。
核融合エネルギー(フュージョンエネルギー)は「夢のエネルギー」として注目されていますが、その主な理由は次の4つの特徴があるからです。
(1) カーボンニュートラル
核融合反応では、二酸化炭素などの温室効果ガスは一切発生しません。さらに、酸性雨の原因である二酸化硫黄や窒素酸化物なども発生しないため、非常に環境にやさしいエネルギーと言えます。
(2) 固有の安全性
核融合は、反応を起こすことが非常に困難です。逆に言うと、何らかの原因により反応条件を満たさなくなると、核融合反応は自動的に停止します。つまり、核融合反応の暴走は原理的に起こりえません。
(3) 安定供給
核融合発電は、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーとは異なり、天候などの外部環境要因に左右されません。そのため、実現したら安定的に大電力を供給することができるようになります。
(4) 高レベル放射性廃棄物が発生しない
核融合反応によって生じる放射性廃棄物は、すべて「低レベル放射性廃棄物」に区分されるため、既存の技術によって処分可能です。
さらに、後述するように、LINEAイノベーションが目指す「先進燃料核融合」は、低レベルの放射性廃棄物すらもほとんど発生しない、非常に環境保全性の高いエネルギー源です。
先進燃料核融合とは
先進燃料核融合とは、燃料に放射性物質である三重水素(トリチウム:T)を含まず、反応生成物として中性子をほとんど発生しない(すなわち、放射性廃棄物がほとんど発生しない)核融合反応のことを言います。
例えば、D-3He反応、p-11B反応などがあります。ここで、
D:重水素(水素Hの同位体)
3He:ヘリウム3(ヘリウムの同位体)
p:陽子(水素Hの原子核)
11B:ホウ素11(ホウ素の同位体)
を表します。
水素の同位体である重水素(D)と三重水素(トリチウム:T)によるD-T反応が一般的によく知られていますが、この反応で得られるエネルギーの大部分が高速な中性子として発生します。
D-T反応によるフュージョンエネルギーの実現には、燃料のトリチウムや発生する中性子により生じる課題(後述)を解決する必要があります。そのためLINEAイノベーションは、原理的にこれらの課題を生じない「p-11B反応による先進燃料核融合発電」の実現に取り組んでまいります。
D-T核融合炉の課題
中性子が発生することに起因する課題
材料の放射化(放射性廃棄物の発生)
核融合反応によって生じた中性子が、周辺の機器に当たることで材料が放射化(放射性物質に変わること)します。これを抑えるために、放射化しにくい材料を使うことで放射能レベルを低く抑えることは可能です。しかしながら、たとえ低レベルとはいえ、放射性廃棄物が大量に発生する課題についてはまだ十分に議論がなされていないのが現状です。
材料の脆化
金属は、中性子が照射されることで脆くなる性質があります。中性子が多く照射されるほど、核融合炉の壁に使われる金属材料は脆くなってしまうため、炉壁などの材料を定期的に交換する必要があり、交換には多大なコストがかかります。
トリチウム燃料を使用することに起因する課題
燃料供給
自然界に存在する水素の同位体は、軽水素(H)が99.985%を占めており、重水素(D)は0.015%で、三重水素(トリチウム、T)はほとんど存在しません。そのためD-T核融合炉では、反応によって得られる中性子を、核融合炉を取り囲むように設置される「ブランケット」に含まれるリチウムに衝突させることによってトリチウムを生成(増殖)する必要があります。
一方、トリチウムは後で説明するように取り扱いが非常に難しく、核融合反応を持続できる適切な量を過不足なく維持することが求められます。
さらに、D-T核融合炉におけるトリチウムの適切な増殖率は、D-T核融合反応を起こす炉でないと実験的に検証できないという、「卵が先か鶏が先か」といった課題を抱えています。
取扱いが難しい
トリチウムは放射性物質であり、D-T核融合炉の安全性を考える上で最も重要な要因の一つです。放射性物質とはいえ、トリチウムから放出されるβ線(放射線の一種)のエネルギーは非常に小さく、外部被曝による人体への影響は無視できます。
一方、体内に取り込まれた場合の人体への影響(内部被曝)は無視できません。[1] D-T核融合炉では、トリチウムが施設全体に広範囲に分布するため、施設内にトリチウムを閉じ込め、確実に処理する必要があります。[2]
これらの課題があるため、D-T反応によるフュージョンエネルギーの商用利用には、炉や周辺機器に使う材料のさらなる研究開発が必要です。
LINEAイノベーションが目指すフュージョンエネルギー
LINEAイノベーションが目指す核融合方式では、下図の通り水素(Hまたはp)とホウ素(11B)を燃料とし、生成物であるヘリウム原子核(アルファ線)からエネルギーを取り出します。
したがって、LINEAイノベーションが目指すp-11B反応は、トリチウムや中性子に起因するさまざまな課題を抱えていないことから、安全性や経済性が大幅に向上し、社会的な受容性の高い核融合炉の実現が可能となります。この反応は、前述の核融合の一般的な特徴である、(1)カーボンニュートラル、(2)固有の安全性、(3)安定供給、(4)放射性廃棄物の発生が桁違いに少ない、ということ以外にも次のような特徴があります。
燃料が豊富にある
p-11B反応の燃料は水素とホウ素11です。水素は海水から取り出すことができるので、ほぼ無尽蔵に生成可能です。
ホウ素の可採埋蔵量は11億トンと予測されています[3]。そして、天然に存在するホウ素の80%がホウ素11です。可採埋蔵量と現在の生産量[4]をもとに可採年数を算出すると、この先約200年は資源が枯渇することはないと予想されます。
また、この「可採年数200年」はあくまでも現在の技術と価格で(すなわち、ホウ素鉱物からホウ素を生産することによって)採掘可能なホウ素の可採量を元に算出しています。
一方で、ホウ素は海水1リットルにつき数ミリグラム存在しており、海水からホウ素を回収する技術はすでに確立されています。将来的にp-11B反応が実現した際には、現在よりはるかに多くの量のホウ素が必要になることが予想されますが、海水から回収することによってまかなうことができるので、燃料はほぼ無尽蔵に存在すると言えます。
スマートシティ・コンパクトシティに向いている
LINEAイノベーションが目指す方式では、放射性物質がほとんど発生せず、また、非常にコンパクトな核融合炉を実現できるため、大都市に近接した「都市型発電所」として設置することができます。さらに、立ち上げに必要な電力を系統電力から直接供給することができるため、データセンターや離島に直接設置する「オフグリッド発電所」として利用できるようになります。
そのため、送電線による電力ロスや送電線の切断による停電等のトラブルを軽減することが可能です。
このように、p-11B反応によるフュージョンエネルギーは、地球環境を守りながら私たちの生活をより豊かにする可能性を秘めている、まさに「夢のエネルギー」と言えます。
そのため、LINEAイノベーションはこの「夢のエネルギー」の早期実現を目指し、研究開発に尽力しています。
参考文献
[1] 原正憲,赤丸悟士,中山将人「連載講座 核融合トリチウム研究最前線―原型炉実現に向けて―第11回 トリチウム管理」日本原子力学会誌,Vol.61,No.7 (2019), https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/61/7/61_549/_pdf/-char/ja
[2] 岩井保則,枝尾祐希,磯部兼嗣「連載講座 核融合トリチウム研究最前線―原型炉実現に向けて―第9回 トリチウム安全閉じ込め」日本原子力学会誌,Vol.61,No.5 (2019), https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/61/5/61_416/_pdf/-char/ja
[3] Mineral Commodity Summaries, January 2018, アメリカ地質調査所, https://d9-wret.s3-us-west-2.amazonaws.com/assets/palladium/production/mineral-pubs/boron/mcs-2018-boron.pdf
[4] ホウ素の市場規模と市場規模株式分析 – 成長傾向と成長傾向予測 (2024 ~ 2029 年) , Mordor Intelligence, https://www.mordorintelligence.com/ja/industry-reports/boron-market