ミラーとは
ミラー磁場(以下、単に「ミラー」)は、プラズマの磁場閉じ込め方式の一つです。プラズマと磁場閉じ込めについては、こちらのページで詳細に説明しています。
同軸上に2つのコイルを並べて同じ方向に電流を流すと、コイルの近くで磁場が強く、コイルの間で磁場が弱い、下図のような磁場構造が形成されます。これを(単純)ミラー磁場と言います。このような開いた磁力線構造(「開放端」と言います)がミラー磁場の特徴です。
ミラーの閉じ込め原理
磁場の強さが時間的・空間的にゆっくりと変化する場合、磁場中を運動する荷電粒子の磁気モーメントμ(次式)は一定に保たれます。
ここで、
m:荷電粒子の質量
v⊥:磁場に垂直な方向の荷電粒子の速度
B:磁場の強さ
です。
ミラー磁場の閉じ込め原理は、この磁気モーメントの保存則と運動エネルギーの保存則によって決まります。
ここで、
v||:磁場に平行な方向の荷電粒子の速度
です。
磁気モーメントの保存則より、荷電粒子が磁場Bの強いところに来る(B→大)と、磁場に垂直な方向の運動エネルギーが増加(mv⊥2/ 2 →大)します。すると、運動エネルギーの保存則より、磁場に平行な方向の速度が減少し(mv||2 / 2 →小、すなわちv|| →小)、ある条件を満たす荷電粒子はv|| がゼロとなり磁場の強いところで跳ね返され、閉じ込められます。磁場の強いところで、あたかも鏡があるかのように荷電粒子が跳ね返されるので「ミラー磁場」と言います。
この「ある条件」について説明します。最大磁場 Bmの位置を z = zm(コイル部分)、最小磁場 B0の位置を z = z0 (2つのコイルの中間)とします。 位置 z における、荷電粒子の磁場に垂直方向の速度を v⊥(z)、磁場に平行な方向の速度を v||(z) と表します。磁気モーメントの保存則より、
なので、 z = zmでの、磁場に垂直な方向の運動エネルギー mv⊥(zm)2/ 2 を考えると、
すなわち
のとき、荷電粒子は位置 z = zm に到達できません。(運動エネルギー保存則より、上式が成り立つ場合 mv||(zm)2/ 2 < 0 となってしまうため)
上式の Bm / B0 (最大磁場と最小磁場の比)を「ミラー比」と言います。上式より、
- ミラー比を大きくする
- 荷電粒子の、磁場に垂直な方向の速度を大きくする
のいずれかの方法により、ミラー磁場による閉じ込めを良くすることができます。
ミラーの特長
(1) 高温プラズマの閉じ込め
筑波大学プラズマ研究センターのタンデムミラー装置・GAMMA 10は、熱核融合反応を起こすために必要な10keV(約1億度)の高温プラズマの閉じ込めを、1994年時点で達成しています。[1]
(2) 高エネルギービームイオンの閉じ込め
「ミラーの閉じ込め原理」の節で述べた通り、磁場に垂直な方向の速度が大きい荷電粒子ほど、ミラー磁場に閉じ込められやすいと言えます。そのため、高エネルギービームイオン(すなわち高速で運動する荷電粒子)を磁場に対して大きな角度をつけて入射することで、効率的に閉じ込めることが可能です。
LINEAイノベーションは、一般によく知られる熱的(サーマル)核融合ではなく、「非熱的核融合」による先進燃料核融合炉の実現を目指しています。非熱的な核融合反応を起こす上でポイントとなるのが、高エネルギービームイオンの閉じ込めであり、ミラー磁場はこれに適しています。
(3) 不安定性を抑えることができる
単純ミラー磁場は、中心軸上が最も磁場が強く、半径方向外側にいくほど磁場が弱くなっています。そのため、プラズマが外側へ逃げやすく、安定に閉じ込めることができないという課題があります。これを、プラズマの巨視的不安定性と言います。[2]
そこで、野球ボールの縫い目のような形をした「ベースボールコイル」を設置して電流を流すことにより、中心部で最も弱く、外側に向かって強度が増していく磁場分布ができます。”プラズマをこの中に閉じ込めると、どの方向にプラズマが移動しても磁場がより強くなっているので、安定なものとなります。”([2]より引用)
すなわち、ベースボールコイルを設置することによって巨視的不安定性を抑えることができ、擾乱が生じても安定してプラズマを閉じ込めることができるのです。
(4) 装置がシンプル
ミラーの装置は直線型でプラズマの中心を貫く構造物がなく、他の磁場閉じ込め方式(トカマクやヘリカル)と比較すると非常にシンプルです。そのため、メンテナンス性が高く経済的な核融合炉の実現を期待できます。
(5) 開放端系であり直接エネルギー変換が可能
ミラーの磁場構造は開放端であることが特徴です。
LINEAイノベーションが目指すp-11B核融合反応では、荷電粒子であるアルファ粒子(ヘリウム原子核)が生成されます。
荷電粒子であるアルファ粒子は、開いた磁力線に沿って炉心(核融合反応部)の外へ取り出すことができます。取り出した高エネルギーのアルファ粒子は、その運動エネルギーを直接電気エネルギーに変換することができます。すなわち、発電に蒸気タービンが不要になるため、発電効率が大幅に向上することが期待できます。
実際、筑波大学プラズマ研究センターのGAMMA 10に接続された直接エネルギー変換実験装置による電力変換が実証されました。[3]
ミラーの課題
プラズマの高密度化
「ミラーの閉じ込め原理」の節で述べた条件を満たさない荷電粒子は、ミラー磁場の開いた磁力線に沿って逃げ出してしまいます。これを「端損失」と言いますが、これによりプラズマの高密度化が難しいことが課題です。
この端損失を抑え、プラズマを安定化させるために確立されたのが、タンデムミラー方式です。タンデムミラー方式では、単純ミラー磁場に加えて、静電場によってプラズマを閉じ込めます。[2] このタンデムミラー方式により、閉じ込め性能(プラズマ密度)が大幅に改善されました。
また、開放端系だからこそ前述の直接エネルギー変換が可能であるため、先進燃料核融合との親和性は非常に高いと言えます。
LINEAイノベーションは、世界最大規模のタンデムミラー型装置GAMMA 10/PDXを有する筑波大学プラズマ研究センターとの連携/共同研究により、先進燃料核融合の実現を推進していきます。
このようにミラー磁場による閉じ込めには、核融合炉として有利な特徴が多くある一方で、実現のためにはさらなる研究開発が必要です。LINEAイノベーションは、FRCとミラーの両方の特徴を活かし、互いの長所・短所を補完し合うようにハイブリッドさせた先進燃料核融合炉の実現に向けて研究開発を進めています。
参考文献
[1] T. Tamano, “Tandem mirror experiments in GAMMA 10”, Phys. Plasmas 2, 2321 (1995)
[2] 筑波大学プラズマ研究センター 「ミラー磁場によるプラズマ閉じ込めとタンデムミラー方式による閉じ込めの改善」, https://www.prc.tsukuba.ac.jp/ja/%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%9E%EF%BC%91%EF%BC%90%E5%85%A8%E4%BD%93%E5%9B%B3/
[3] Y. Yasaka et al, “Experiment on direct energy conversion from tandem mirror plasmas by using a slanted cusp magnetic field”, Nucl. Fusion 48, 035015 (2008), https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0029-5515/48/3/035015/pdf